夫が主たる家計維持者だった場合、夫が受け取る退職金や年金の財産分与について考えなければなりません

妻としては、財産分与の範囲や額が広がるほど離婚後の生活費を大きく支えることになるため、事前にしっかりと概要を把握しておく必要があります。

ここでは、財産分与における退職金と年金の取り扱いについて解説します。

専業主婦は夫の退職金について財産分与を受けることができる場合がある

夫が退職金を得られるということは、長年に渡る夫の就労を家庭面から妻が支えた結果であると考えられることから、受け取るのは夫でも夫婦としての共有財産と見なされます。

退職金の財産分与は単純に2分の1を受け取れるのではなく、勤続年数のうち婚姻期間に該当する年数について、割合に従い分与を受けることになります。

ただし、もらった退職金をすでに他のローン返済に充てる等して残金がない場合、分与を受けることはできませんので注意しましょう。

なお、夫が定年間近であり会社の退職金規定がしっかり整っている場合、退職金を受け取れるものと見なされ財産分与の対象となりますが、退職までまだ年数がある場合は、途中で退職する可能性もあることから対象外とされる場合があります。

厚生年金保険および共済年金は対象になる

夫婦の片方のみが会社員として働いて収入を得て,もう片方の配偶者が専業主婦(主夫)として家事を行っていた場合を考えてみましょう。

この場合、年金保険料の支払には夫婦双方が貢献したといえるのに,夫婦の片方のみが厚生年金を全額受給できることは不公平です。

このように,片方の配偶者が年金保険料の支払に貢献した以上,そのいっぽう配偶者の年金受領金額に反映させることが公平であることから,年金分割制度が導入されました。

年金分割として年金を受給するためには、夫が年金の資格期間を充たしていることが必要です。

年金の資格期間は25年ですので、夫が25年以上年金を支払っていることが必要です。

厚生年金か共済年金に限り財産分与の対象となる

夫が加入している年金も財産分与の対象となりますが、婚姻期間中に夫が厚生年金か共済年金に加入していた場合に限られます。

該当する場合、合意分割か3号分割のいずれかの手続きによって分与を受けることができ、これを年金分割制度と呼びます。

合意分割

平成19年4月1日以降に離婚した夫婦は、話し合いにより任意に分割割合を決めることができ、これを合意分割と呼びます。

妻が第1号被保険者、第2号被保険者、第3号被保険者のいずれの場合でも請求が可能で、2分の1を上限として双方が受け取る割合を決定します。

3号分割

平成20年4月1日以降に離婚した夫婦は、妻が第3号被保険者である場合に限り、その被保険者期間について財産分与を受けることができます

夫が会社員の第2号保険者で妻が第3被保険者である場合、保険料支払い実績は夫に対してのみ記録されるため、年金受取時点では夫だけが老齢厚生年金や退職共済年金を受け取ることができ、妻との間に格差が生じます。

しかし、夫婦はともに協力し合って生活を維持してきましたので、妻の貢献度をしっかり認め、夫に支払われる年金を分割し公平を保つという考え方に基づいて生まれたのが、3号分割という仕組みになります。

合意分割と異なり夫婦による話し合いや合意の必要はなく、強制的に年金の2分の1が妻に移行します。

合意分割、3号分割のいずれにおいても、離婚から2年以内に請求しなければ権利は消滅しますので、できるだけ速やかな手続きが求められます。

年金に関する財産分与の手続き

合意分割か3号分割かによって財産分与を受ける手続きは変わります。

合意分割の手続き

年金分割について夫婦が話し合いで合意できた場合、その内容を書面化して公正証書とし、年金事務所で手続きを行います。

話し合いでまとまらない場合は、離婚調停の付随申し立てを行い、調停委員を介して年金の分割割合の決定を目指します。

調停で合意に至れば調停調書が作成されますので、これを年金事務所に持参し、手続きを進めます。

調停が不調に終わった場合は審判により家庭裁判所が割合を決定します。

離婚裁判に移行した場合も、裁判官により分割割合が決定されます。

審判や裁判により決定した場合でも、離婚の事実や財産分与を含む離婚条件が審判書や判決書に記載されていますので、これを年金事務所に持参して手続きを進めます。

3号分割の手続き

夫の同意は必要ありませんが、妻が自ら年金事務所で手続きを行う必要があります

年金事務所には、年金手帳や婚姻期間のわかる戸籍謄本等、年金事務所に備え付けの標準報酬改定請求書を提出します。

年金機構における手続きが完了すると標準報酬額改定通知書が届き、年金分割が開始されることになります。

財産分与問題は早期の弁護士相談が有利になる

夫婦であった期間が長いほど2人で築いた財産の種類や額は増えますから、双方の話し合いをまとめるにも相応の時間や労力を要します。

当事務所でも多くの離婚問題を扱っていますが、早く離婚したいがために不利な合意を行った場合、先々後悔したとしても結果を翻すことが非常に困難になり大変苦労する場合があります

また、離婚することを優先にし、財産分与の話し合いを後回しにした結果、すでに2年を経過して請求権利を失っていることもあります。

離婚前からご相談頂いていれば、適正な財産分与を受けることができ、権利の消滅等の不利益を被らずに済んだと思われるケースが散見されるのです。

相手方との話し合いは必ずしもスムーズに進むわけではなく、また当事者同士では感情的になりストレスにも繋がりやすいことから、正当な権利を主張しきちんと財産分与が実行されるよう、できるだけ早く当事務所までご相談頂くことをお勧めします

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